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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第4章 女中 清(きよ)
その数日後、<松の内>が終わる日の夕刻、下宿生の吉川誠一が、帰省先の新潟から戻ってきた。
・・・東京帝大文学部に学ぶ誠一の実家は、県下で一、二を競う豪農で、上京後は外交官の叔父の官舎に寄宿していたが、前年11月にその叔父が英国に赴任したのを契機に、「西片向陽館」に入った。この下宿では、女中頭の幸乃の差配のもとに、6人の女中が週替わりの当番で、5人の下宿生たちの世話をしている。
誠一は、下宿に入った日に、幸乃から<女中は下宿生の求めに応じて寝間での奉仕もする>と秘密を明かされ、戸惑いもしたが、その後、年末までの当番で5人の女中に順々に接するうちに、<下宿生と女中たちがお互いを思いやりながら、皆で共同生活を営んでいるかのような>温かみを感じ取り、次第に新しい生活に馴染んできたのだった・・・。
誠一が玄関に入ると、幸乃が奥から小走りに出てきて、玄関上がりの板間に正座し、新年の挨拶と、誠一が実家から<女中たちに>と大きな木箱で送った餅へのお礼を言った。そして、立ち上がって、誠一の革のトランクケースと黒いコートを両手で引き取ると、 「丸一日の長旅でお疲れでございましょう。今週は清が初めて吉川様のお当番をさせていただきます。そろそろ夕餉やお風呂の支度も整えているはずですので・・・、」 などど話しながら、誠一の部屋まで廊下を進んでいった。