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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第4章 女中 清(きよ)

 幸乃が廊下に面した障子戸を開けると、「次の間」で、年のころ三十過ぎの、中背で瓜実(うりざね)顔の、美形の女中が、新年を迎える前に洗濯してくれていたと思われる敷布や布団カバーを、押し入れから出して整理しているところだった。楚々と整えられた束髪(そくはつ)や、黒灰の綿紬に際立つふくよかな胸元と腰回り、さらには、後襟から覗くすらりとしたうなじが、古風な切れ長の目とも相まって、年増の女性の色香を感じさせた。女中は、誠一の方に向き直って正座し、畳に指をついて深くお辞儀をした。

 「新年明けましておめでとうございます。今週のお当番を勤めさせていただきます、清と申します。」

 「吉川です。よろしくお願いします。」

 「吉川様がこちらにいらしてから、6人の女中の中で、清の当番が最後になりましたね。それでは、清、後はお願いしますよ。」 幸乃はそう言って、手荷物を部屋の隅に置くと、障子戸を静かに締めて部屋を出ていった。
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