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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第1章 女中頭 幸乃(ゆきの) ~ 「西片向陽館」の秘密

その屋敷町の一画に、古刹(こさつ)の宿坊を思わせる、大きな平屋書院造りの建物が佇(たたず)んでいた。昭和9年の11月下旬、秋晴れの昼下がり、その建物の門前に黒光りするフォードA型セダンが停車した。詰襟に白手袋の運転手が、素早く後席ドアを開けると、東京帝國大学の制帽を被る青年が降り立ち、門柱に掛けられた 「帝大生御下宿」 の墨書き木札と、 頭上の框(かまち)に据えられた 「西片向陽館」 の扁額(へんがく)に目をやりながら、広く天井の高い玄関に足を踏み入れた。
「御免下さい。」
少し間をおいて、「はーい。只今参ります。」 と、黒茶色に艶光りする廊下の奥から、柔らかながらも、よく通る女性の声がして、年の頃四十ほどの、パーマネントウェーブで<耳隠し>に髪をまとめた女中が小走りに現れ、玄関上がりの板間に正座して三つ指を突き、青年を見上げて微笑んだ。
「吉川誠一様ですね。館主の三島からお話を伺い、お待ち申し上げておりました。私は、こちらの女中頭の幸乃と申します。」
「御免下さい。」
少し間をおいて、「はーい。只今参ります。」 と、黒茶色に艶光りする廊下の奥から、柔らかながらも、よく通る女性の声がして、年の頃四十ほどの、パーマネントウェーブで<耳隠し>に髪をまとめた女中が小走りに現れ、玄関上がりの板間に正座して三つ指を突き、青年を見上げて微笑んだ。
「吉川誠一様ですね。館主の三島からお話を伺い、お待ち申し上げておりました。私は、こちらの女中頭の幸乃と申します。」

