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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第1章 女中頭 幸乃(ゆきの) ~ 「西片向陽館」の秘密

建物の東側にある部屋の一つが、誠一に用意されていた。幸乃が<普通には、奥の「座敷」を書斎や寝間として使い、手前の「次の間」を居間にして、食事や、ご友人方の応接をしている>などと、ひとしきり部屋の中を見せていると、年の頃十五、六の、少女の顔立ちで<桃割れ>を結った女中が、廊下に膝をついて控え、 「お茶をお持ちしました。」 と、緊張した口ぶりで声を掛けた。
その女中は、幸乃と同じ綿紬を着ていたが、まだ下ろしたてのようで、袖や襟が角張っている。幸乃は、若い女中が脇に置いた柿色の京座布団を持ち上げると、 「失礼致します。」 と言いながら、床の間の前に置いて誠一に座るように勧め、自分はその脇に正座した。
「良枝。こちらへ・・・。」 と、幸乃が若い女中を手招きした。良枝と呼ばれた女中は、九谷の赤絵瑞鳥の急須と湯呑が載った黒漆のお盆を、誠一の前に差出し、お茶を注いだ。玉露の甘く清涼な香りが漂った。誠一が 「有難う。」 と声を掛けると、良枝は、はにかんだように顔を伏せ、頬を赤くした。
その女中は、幸乃と同じ綿紬を着ていたが、まだ下ろしたてのようで、袖や襟が角張っている。幸乃は、若い女中が脇に置いた柿色の京座布団を持ち上げると、 「失礼致します。」 と言いながら、床の間の前に置いて誠一に座るように勧め、自分はその脇に正座した。
「良枝。こちらへ・・・。」 と、幸乃が若い女中を手招きした。良枝と呼ばれた女中は、九谷の赤絵瑞鳥の急須と湯呑が載った黒漆のお盆を、誠一の前に差出し、お茶を注いだ。玉露の甘く清涼な香りが漂った。誠一が 「有難う。」 と声を掛けると、良枝は、はにかんだように顔を伏せ、頬を赤くした。

