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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第2章 女中 良枝
もう昼餉時を過ぎていた。誠一は、強い空腹を感じ、良枝が整えてあった朝餉の膳の前に、丹前の前を開けたまま<あぐら>に座り、汁椀のフタをとって冷えた味噌汁を一気に飲むと、お櫃のご飯を茶碗に入れ、やはり冷えたお茶をかけて、立て続けに二杯ほどを腹に流し込んだ。それで少し落ち着くと、お膳に載った新巻鮭や卵焼きに箸をつけた。
その頃には、良枝も「座敷」の隅で、開いたままの襖の陰に隠れて身繕いすると、誠一の前に正座して、 「遅くなり申し訳ございません。」 と、健気にお辞儀をした。誠一はやさしい笑顔で、 「いきなりお願いしたのに、良枝ちゃんが自然に応じてくれたので、とても気分が楽だった。それに、さっき素直に本心を話してくれたので、良枝ちゃんの女中奉公の一所懸命さが分って、僕も背筋が伸びる気がしたよ。」 と、声を掛けた。