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第1章 女中頭　幸乃（ゆきの）　～　「西片向陽館」の秘密

　幸乃は、しばらく下を向いていたが、やがて意を決したように、誠一の顔を真直ぐ見ながら、話し始めた。　「吉川様。叔父上様の仰った＜一人前の男になる＞ということは、殿方の間では下世話な意味がおありと存じます。」

　「それは・・・、確かにそういう意味がありますね。」

　「曖昧な申しようではお分かりになりにくいと存じますので、はっきりと申し上げます。この下宿の女中たちは、皆様のお求めに応じて、寝間でのご奉仕をさせていただきます。あくまで、下宿生と女中の間柄を越えないよう、皆さまとの接し方については、私が責任をもって差配いたしております。叔父上様は、昔、そのことをご自身で体験もされ、よくご存じだからこそ、吉川様にこの下宿をご手配されたかと存じます。」

　幸乃はなおも言葉を続けた。　「叔父上様のお手紙には、＜甥は、新潟で一番、二番という豪農である本家の家督を、いずれは継ぐ立場なので、世間知らずのまま遊郭に溺れたり、不適当な女性関係に嵌（は）まることがないよう、この下宿で節度を保って女性経験を積ませてやってほしい＞と書かれていました。」