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やっと、逢えた
第3章 せめて、声だけでも
「夜分に大変申し訳ありません。
『エルミタージュ』の葵と申します」


業務用のすました声で葵が彼女に電話をする。


彼女の声は聴こえないし、
葵は淡々と手帳を観ながら日程の話をしていた。


そして、俺の方を向いてウィンクをすると、

「では、明日の18時にお待ちしております。
食事などは取らずにいらしてください。
それでは、おやすみなさいませ」と言って、
少し待ってから静かに受話器を置いた。


「明日ですよ!明日!
今度こそ会えますね?」と俺にニヤニヤしながら言うと、

「秘書さんだから、電話の受話器、すぐに置いてくれなくて、
タイミングが難しいんですよね」と笑いながら手帳の予約表に名前を書いていた。


俺は突然のことに、
茫然としてしまっていた。


「じゃあ、アタシ、帰りますね。
白蓮さまも今日はもう帰るでしょ?
車ですよね?
一緒に帰りましょ?」と言って、
バッグを肩に掛けた。


俺は押し切られるように立ち上がると、
眩暈がして、手にしていた車のキーを落としてしまった。


最近、食後の『ジュース』を飲んでいなかったからかな。


そう思いながら、
ゆっくりとキーを拾い上げた。
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