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やっと、逢えた
第3章 せめて、声だけでも
施術は常連なら2時間が平均的だけど、
なにしろ高いサロンだし、
若いOLでは1時間が関の山だろうと思ったら、
物凄く緊張してしまった。


時計の音がやたら響いて聴こえて、
その度に心臓が喚き出すようだった。


こんなことでは、
まともに彼女と話も出来ないだろうと思って、
ゼンハイザーのヘッドホンを引っ張り出して、
静かなピアノの演奏を聴き始めた。


深くソファに座ってもたれながら目を閉じて音に集中しているうちに、
どこか遠くに行ってしまったような心地になる。


それで、葵がノックをして部屋に入って来たのも気が付かなかった。


身体をゆすられても、
自然に身体がピアノの音に揺蕩う状態になっているかと思ってしまって、
いきなりヘッドホンを外された時は、
惚けた顔になっていたようだ。




「ちょっと、蓮?
何やってるのよ!
彼女、帰っちゃうよ?」と言われて、
ああ、そうだったと思い出した。



「ここに呼んで?」と言うと、

「はいはい!」と言いながらくるりと向きを変えて、
バタンとドアを閉めた。


乱暴なヤツだな。


そう思ったら、
なんだか可笑しくて声を出して笑ってしまった。
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