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やっと、逢えた
第3章 せめて、声だけでも
「そちらにどうぞ」と正面の一人掛けソファを勧めると、
「失礼します」と言いながら、
優雅に腰掛けて俺を観る。


葵が助け舟を出すように、

「うちのサロンのオーナーです。
オーナー、こちらは新規のお客様の日向様です。
あ、お茶を用意して参りますね?」と言って部屋から出て行った。


少しの沈黙。
でも、悪くはない。


「ショパンがお好きなんですか?」と訊かれて、
一瞬、何のことかと思ってしまう。

「それとも、このピアニストが?
音がとても繊細ですよね」と言われて、

「好きです」と子供のような言い方をしてしまった。


もっとちゃんとした言いようがあるだろうに、
本当にいけてない。


そしてまた、沈黙。



葵がトレイに載せたティーポットとティーカップを持ってきて、
俺たちの前に置くと、

「では、これで本日は上がらせていただきます。
カップなどはそのままでどうぞ。
失礼いたします」とお辞儀をして、
サッサと出て行ってしまう。


俺が飲まないと遠慮するかと思って、

「どうぞ」と勧めて、
俺からカップに口をつけると、

「あの…。
猫舌なので、ゆっくりいただきますね?」と言って微笑んだ。


ギュッと心臓を鷲掴みにされるような優しい微笑みに、
俺は既に卒倒しそうになっていた。
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