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やっと、逢えた
第3章 せめて、声だけでも
「あっ。
そうだ!」と俺は立ち上がって、
デスクの引き出しから傘を出して彼女に差し出した。


「あの時は、ありがとうございました」と言うと、

「ああ。
だから、何処かでお会いした感じがずっとしていたんですね?」と言って、
両手で受け取る。


受け取りながら少し指先が触れると、
また、身体中の血液が逆流するような感覚がしてしまう。


「あの…。
何処かお悪いんですか?」と彼女が少し心配そうな顔をする。


「えっ?」


「あ…ごめんなさい。
身体の不調を治しに来ている私がこんなこと言うの、おかしいですよね?」
と何かを呑み込むような言い方をする。


話題を変えるように、
彼女は明るい声で話し始める。


「ちょうど良かったんです。
この傘、紺色で少し重たくて…。
もう少し優しい色のものを買い替えようかなって思ってたから。
それに、あの時、あまりに顔色が悪く見えたから、
風邪でも引いているのかと思って…」



いつまでも静かに声を聴いていたいような。
でも、それ以上に、
抱き締めたくて、
俺は一人静かに矛盾したような気持ちに呑み込まれていっていた。
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