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やっと、逢えた
第1章 ある雨の日
「それで、その女の子に一目惚れした?」と葵に言われて、
俺は下を向いて呟くように言った。


「手が触れた瞬間に、
身体中の何か全てが弾けるような感覚がした。
多分、出逢えたんじゃないかな?」


「そりゃ、おめでとうございます。
でも、アタシ、そういうのわかんないので。
お館様に訊いてみたら?」


「やだよ。
そうでなくても、早く結婚しろってうるさいし、
連れて来いって言うだろうけど、
どこの誰かも判らないし。
それに…」


それに、彼女を傷つけてしまう。
最悪、殺してしまうかもしれない。



飲み込んだ言葉を察するような顔をした葵は、

「取り敢えず、帰りますね?
さっきのお客、なかなかしつこくて、
疲れちゃったんで。
戸締り、ちゃんとしてくださいね?」というと、
葵はスタスタと部屋を出て行って、
程なく、玄関のドアが開閉する音がした。







葵が乾かすように開いておいてくれた傘をぼんやり観ながら、
彼女のことをゆっくり考えてみる。

サンバリア?
ああ。
日傘か。
スマホを取り出して検索してみる。

高いのか安いのかも判らない。
なにしろ、傘も日傘も買ったことはない。

もっと言うなら、
何処かの店で何かを買うこともしたことはない。



日傘をさしながらゆっくり歩く彼女の後ろ姿を想像してみた。
それで、不意に彼女が髪を纏めていて真っ白い頸筋をしていたことを思い出した。

僅かにその首に掛かる後れ毛。

その頸筋に噛みつきたい。




いやいや。



俺は首を振って、
丁寧に傘を折り畳んでいった。
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