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隷落の檻・淫獣の島 ~姦獄に堕ちた被虐の未亡人~
第4章 早苗の過去
シュンが、

「はい」

「はい」

と、言いながら歯磨き粉と歯ブラシのセットを配っていく。簡易の歯磨きセット。200円くらいの歯磨きセット。

わたしは、少し戸惑っていた。すると、シュンが、

「おい。なんて顔している。歯磨きは、食後のエチケットだぞ」

と、笑いながら、わたしに、歯磨きセットを渡してきた。意外だった。今でいう半グレ集団。当時は不良集団とか、チーマーとか言われていた集団。

人生を逸脱した自堕落な不良集団という感じなのに、意外に、生活は真面目。歯磨きも念入りに磨いている感じだった。

母は、いつものようにクソ真面目に歯を磨いていた。こんな環境でも、というか、こんな環境だからなのか、そこはわからないけど、普段と同じ。男たちが洗面でうがいをして、歯磨きセットの入れ物に、歯ブラシと歯磨き粉を入れて、洗面を離れると、母が洗面に行った。わたしも行くと、うがい。

「久しぶりのエッチだね。緊張する?」

わたしがお道化て訊くと、軽く笑って、

「そうね。援助交際しているあなたとは違うから」

と、母が言った。

「え?」

普段の謹直な母からは想像できない冗談というか、揶揄。わたしは戸惑った。

「生まれ変わったつもりで、楽しむことにするわ。楽しめるかどうか、そこはわからないけど。楽しむようにするわ。あなたの言う通り、一度きりの人生だから、楽しまないとそんなのかもしれないし、あの人に義理立てする理由もないから」

母は、明るくなったように感じた。空元気?それとも、心境の変化。やはり、女はエッチには貪欲な生き物なの?いろいろなことを思ったけど、どれも当たっているような当たっていないような感じだった。

シュウが、わたしと母が話している洗面に来て、

「おっ、菜穂子さん。雰囲気が変わったね」

母の表情を一目見ただけで気が付いた。この人は、人の表情から機微を窺うことに長けていると、思っていたけど、この瞬間に、それが確信に変わった。今なら、たぶん、陰キャが陽キャになったねとか、言っていたかもしれないけど、当時は、そんな都合のいい言葉はなかった。

「やっと吹っ切れたかもしれません。久しぶりのエッチ。楽しめるかどうかはわからないけど、楽しむようにしたいと娘に言っていたところです」

母がシュウの顔を見て、はっきりと言った。大きくうなずいたシュウ。
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