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奴隷館 Crime d’amour〜Mの肖像
第10章 被虐の快感〜緋美 主従契約の誘惑
 部屋の主の四宮は、ゆったりとソファーに腰を下ろし、足を組み、私を見ていた。

 右手に洒落たカッティングのグラス、透明な褐色の液体が三分の一ほど入っている。シワひとつ無い白いシャツに細身の黒いパンツ。軽いウェーブのかかった黒髪。短く揃えた襟足が清潔な印象だ。私と同じような黒いマスクをつけている。

「そばに来なさい」
「はい」

 私の声がかすかに震えていることに、この人は気づいただろうか?

 手のひらがじっとり汗ばんでいる。
 心臓がどきどきして、口から飛び出しそうだ。

 緊張と……これから受ける辱めへの期待に、私は震えていた。

 十二センチのハイヒールを履いた足で、男の前までゆっくり歩く。そして背を真っ直ぐにして立つ。

「今夜、僕はきみを買った。だから僕をご主人様と呼びなさい」
「……はい。ご主人さま」

 声が震えないようにお腹に力を入れて答えた。

 私はこの人に買われた。その事実に、私のなかの熱っぽいうねりが激しくなる。

「きみの顔が見たい。そのマスクを外しなさい」
「それは……」

 いくらご主人さまでも、私を買った人からの命令でも、それは無理だ。素顔を見られたくない。
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