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第2章 落とし物

【４】
「この部屋よ」
シャワーから戻ってきた悠希を連れて、萩子は２階の寝室に入りました。
正面に見える大きな窓は南向きで、外からの光にレースのカーテンが白く浮かび上がっています。エアコンの暖房を入れておいたので、室内はそれほど寒くありません。
萩子は窓に近寄って厚手のカーテンを閉めました。暗くしたかったのですが、遮光カーテンではないため薄暗くなった程度でした。
（結構明るい・・・）
今まで夜に最小限の灯りの下でしか経験が無いので、この明るさでは気後れしてしまいますが、今更止めるとは言えません。
「ここに座って」
萩子が、２つあるベッドのうちドアに近い、掛け布団を片付けておいた方に座り、悠希に横に座るように声をかけます。
「は、はい」
ドアの前に立ったままだった悠希はかなり緊張している様子で、ぎこちない動作で萩子から少し離れて隣に座りました。
「そんなに緊張しないで、って言っても無理よね。私もこういうこと初めてだから緊張してるし」
萩子は少し考えます。
「そうだ、悠希くん。手を繋ごうか」
そう告げると、悠希との間に手を差し出しました。悠希がおずおずと手を重ねます。緊張からか、悠希の手は少し冷たく感じました。萩子が躰を少し寄せて、悠希の手を包むようにもう片方の手を重ねます。少し力を入れて握ると、悠希も握り返してきます。そうして手を繋いでいると、徐々に二人の手が温かくなってきました。
「萩子さんの手、柔らかいですね」
悠希の緊張が少し溶けてきたのを感じます。
「それじゃあ、始めようか」
「は、はい」
「まずは、何からする？」
「・・・キス、してみたいです」
「悠希くん、キスも初めて？」
「はい・・・」
萩子の問い掛けに、悠希は恥ずかしそうに応えました。
「そっか・・・」
（まったく初めてなんだ。でも、練習だから悠希くんからの方がいいよね）
萩子はそう思い、上体を悠希に向けます。
「いいよ。でも練習だから、悠希くんから、キス、してみて」
と言うと、悠希の顔の高さに合わせて少し上向き、ゆっくり目を閉じました。
悠希が恐る恐る顔を近づけてくるのが、気配でわかります。
二人の唇が、初めて触れ合います。
（これが、悠希くんのファーストキスになるのね）
萩子にとっては約１年ぶりの唇の感触でした。