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微熱に疼く慕情
第1章 【渇いた心】
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「金曜日、楽しみにしてる」
そう言うだけ言ってエレベーターを降りて行った
もう素の自分を知られているわけだし気を遣う事もないか
メッセージの通知が来て確認……
そっか、もう結構日にち経つのかな
美容師の樹くんからお誘いメッセージが届いてる
ごめんね、仕事が忙しいって事にしておく
もう少し放置させてね
お休みの日は当分埋まりそう
(落ち着いたらお店予約するね)と返信した
食堂エリアでいつも壁に向かってお弁当を食べている
気を遣いたくないし、周りの視線も気にならないから
それが最適な過ごし方だったのに
さっきから連続で他部署に話し掛けられ恋人の有無を聞かれたり飲み会を誘ってくる
恋人は居ません、でも片想い中です…って事にしてある
いちいちリアクションしなきゃならないのが超絶面倒くさい
1人で過ごしたいのよ、貴重な昼休憩は
固まってトイレに行きたくもないし、揃うまで食べるの待ってるとかも嫌なの、時間の無駄
効率の悪さにドッと疲れる
何が楽しくて周り知らない人だらけの飲み会に参加するのよ
まず名乗れ、顔見ても名前と一致する人の方が少ないんだが
よく行く営業課ならバッチリ覚えているけど、他の部署は普段絡む事がほとんどないので未だに覚えられていない
そんな中で「隣、座っても良い?」と言ってきたのは山岸先輩だった
まさか休憩時間にまで接近してくるとは思わなくてびっくり……
「どうぞ」って言うしかない
周りは仲良さげに話す2人を不思議に思うだろうか
あからさまに狙ってる感も出さず好感触
先輩後輩の関係性がちゃんと出てる
次のステップとなる食事デートのハードルを低くする為に頑張りました…と後で聞いた時はそういうテクもありだなって思ったけどね
頭では違う事を考えながら笑顔で話してる
眼鏡の奥の顔、もっと想像してよ
沈む心を掻き立てて…?
良い暇潰しになってよ
渇いた心を潤して…なんて言わないからさ
笑って愉しめるくらいの器、見せてね
期待しないで待ってる———
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