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さくらドロップ
第2章 まるで蜘蛛の糸に絡め取られた蝶のように
「茜さん」

 え?
 思わず顔を上げると、深い闇のような黒眼と、目が合った。深い闇のような黒眼に、驚いて目を見開く私が、確かに映っていた。

「そろそろ時間ですよ。戻らないと」

 その声は、やはりと言うべきか、無機質で無感情、ただの音にしか聞こえなかった。言葉遣いは幾分か丁寧だったけれど、それ故に素っ気無く、距離を置いているような感じ。
 私は彼の言葉に答えられず、ただ彼を見詰め返す事しか出来なかった。体の底から湧き上がる、息も出来ない衝動。真っ白になった頭の中でただひたすらに、彼の声が繰り返し私の名前を呼んでいた。

「オイ、予鈴鳴ってんぞ」

 そんな私を現実に引き戻したのは、無遠慮な別の声。はっと我に返れば、怪訝そうな顔をする黒髪くんの姿。途端、教室内の慌しさが鼓膜を一斉に揺らした。

「ヤバッ! 次移動教室!」

 慌てて椅子から立ち上がり、元の席に戻す。床に置いていた重箱を持ち上げる。
 視線を金髪の子に向けたけど、相変わらず詰まらなさそうにゲームをしていた。授業開始前だというのに、止める気配はない。
 さっきの事が、夢か幻だったのではないかと思わせる程、彼はいつも通りだった。

「そ、それじゃ、またね」

 そういうと、珍しく黒髪の子がおーと答えてくれた。金髪の子が軽く手を上げる。
 なんだか少し信じられなくて、名残惜しくて、それでも喧騒に追い立てられるように、教室を後にした。
 重箱を抱えて急ぎ足。顔はにやにやにやにや。端から見たら、見っとも無くだらしない顔をしているんだろうけど、溢れ出す感情が抑えきれない。
 少しは近付けたんだろうか。少しは近付く事を許してくれたんだろうか。少しは仲良くなれているんだろうか。少しだけ、中に入れてくれたんだろうか。
 これは名前を教えてもらえる日も、そう遠くはないかもしれない。

「餌付けが効いたの、かな」
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