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溶け合う煙のいざないに
第2章 答え合わせ

石造りの目隠し門を並んで抜けて、見慣れた部屋一覧に足を止める。指定したのは卵塚の方だったが、このホテルは利用したことがある。
灰皿がやけに古臭い大きなガラス製で、好きなだけ吸って帰れという意思を感じるのが良い点だ。シャワーの勢いが段違いに強く、ガラス張りの浴室がほぼ曇らない作りからしても変態的な拘りが快適さを確立している。
空室のライトは半数ほどで、卵塚の迷う指先にふっと笑みが漏れてしまう。
「どこでもいいだろ」
「本当にい? 鞭が並んでるとこでもいいわけ」
「趣味か?」
「まさか」
カフェからの道中、どのホテルにするかの会話以外ほとんどなかった。コーヒーも尽きてゴミ箱に放った。他人のままの情報量が後腐れないのを互いによくわかっている。
この数時間次第で二回目があるのか決まるわけだ。
大差ない部屋の中で最上階を選んだ背中を、一歩下がって追いかけるようにエレベーターに向かう。鉄扉が閉じるまでは肩すらぶつからなかった。
閉じた瞬間、視界が急に暗くなったかと思うと胸板に埋めるように抱きしめられていた。あまりの勢いに笑いそうになったが、すぐに頬を持ち上げられて唇が重なった。
唇全体がなぞりあったのは数瞬で、熱を帯びた舌先が滑り込んできた。柔らかくて薄いその感触を味わっていたかったのに、焦るように舌を引きずり出される。
背中が冷たい壁に押し付けられ、はあっと息継ぎをしながら視線を合わせる。
心臓がじりじりと焼かれるような熱い眼だった。
久しぶりにゼロ距離で欲望をぶつけられて、つい卵塚の後頭部に縋るように手を添えた。余裕が滲んだ両目が嬉しそうに歪み、もう一度唇が繋がった。
狭い密室に荒い息と、脳に直接響く水音が満ちる。
ああ、くそ。
擦られる咥内が悦んでる。
大きな口と舌に食べられるようにペースが奪われる。
もう既に二回目を望んでしまう。
八階に到着するアナウンスに弾かれるように体を離した。
咄嗟に拭った口元に無様な液体が滲む。
今すぐにでも続きをと求めあう空気があふれ出す。
幸いにも廊下に人影はないが、目当ての部屋までやけに遠く感じた。焦る体を鎮めようと可能な限りゆっくり足を踏み出す。
最低限のマナー通り一言も発さずに部屋のキーを開けた卵塚が、自分の部屋に招くかのように手を差し出した。
演出家めが。
本能が素直に手を握り返す。

