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第60章 特別な日の始まり

地元の駅に戻ると昼時を過ぎていたので駅前の中華料理店に入った。

(おや？あれは……)

店内にはなんと梨果の父親である絵画講師がカウンターでビールを飲んでいた。

「小山田先生こんにちは。ご一緒させてもらっていいですか？」

「あっ……こ、これはこれは。む、娘が大変お世話になっております。」

昼からだいぶ酔っているようだ。フラフラと立ち上がって頭を下げようとしたので制止した。

「やめてください。まま、座ってください。」

講師のグラスにビールを注ぐ。

「すみません。」

店員に声をかける。

「はーい。お決まりですか？」

大学生らしきアルバイト男性だ。

「瓶ビールを二本ください。それとー……」

何か食べようと壁にかかれたメニューを眺める。

「タンメン……」

講師がボソッと呟く。

「えっ？」

「タンメン……ぜひ。」

「……ではタンメンと餃子もください。」

そう店員に告げると講師が満足そうに頷く。

先に届いたビールを煽る。

「ぷはぁ、旨い……すみません、このところすっかり教室に行くのをサボってしまっていて……」

「いえ、いらしてないのに月謝を払っていだいて……むしろすみません。」

「経営はいかがですか？」

「やはり以前のようには……しかしあいにく妻も……娘も居ないのでその分の生活費の支出が無いのでなんとか。」

「梨果さんの学費、キツいようなら仰ってください。」

「いえいえ、ただでさえ娘の生活費をお世話いただいているのに……学費だけは必ず払います。」

「奥様は今は？」

講師のグラスにビールを注ぐ。

「退院はしたのですが、実家の両親の元で暮らしてます。私は未だ許されないようで。まぁ自業自得なのですが……せめて梨果への誤解だけでも解けると良いのですが。」

精神を患い入院していた梨果の母親は退院したようだ。
梨果への誤解というのは、講師が梨果を犯そうとしたのは梨果が父親を誘惑したのも原因ではないか。という事実とは異なる事だった。この事で梨果も母親から拒絶されていた。