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なりすました姦辱
第2章 制裁されたシングルマザー


 高校は都内に通っていたので慣れているべきなのだが、ほぼ毎日が遅刻するかどうか、おまけに乗車駅の時点での諦め率が30%くらいはあったから、ピーク時間の満員電車に乗るのは久々だった。JRの人身事故による振り替え輸送で人々が殺到し、輪をかけて混雑している車内は、一度その体勢でドアを閉められてしまうと、次の駅で開くまでは容易に修正できないほどだった。

(やば……、足挫きそ……)

 ミュールではバランスも取り辛い。立つことを仕事にしようとしている自分でも、とても目的駅まで持ちそうにない。

 真璃沙は次の駅を待たずに強引に身を立て直し、中年女にジロリと睨まれても平然と、密集度が比較的低かろう奥を目指し、乗客をこじ開けて進んでいった。

(うえっ、キッツ……)

 進んでいく際、サラリーマン連中の背中に上躯の至るところが擦れた。これが夏真っ盛りの汗染みたワイシャツだったりしたらたまったものではないが、上着を着てくれているだけまだマシだ、と心の中で防御呪文を唱え、自分のスリムさでもさすがに足りなさそうであっても、座席前の列にあった僅かなスペースを無理矢理に広げさせ、一つだけ空いていた吊革につかまって、漸くの安堵の息をつくことができた。

(……オッサンたち、こんな電車に毎日乗ってて嫌んなんないのかな)

 周囲に並ぶスーツの群れを眺めて、そう思った。どれもこれも、疲れが背中を丸くさせている。とても「美しい立ち姿」とは言えない。

(パパも、こんな感じなんかな。さっすがにサラリーマンじゃ、どんだけ偉くなっても、車で送り迎えってのはナイか)

 具体的に何の仕事をしているかは理解していないが、父は会社では結構偉いようだ。その証拠に、わりと裕福な暮らしをしているほうだと思う。しかし日本人の母親と結婚したとはいえ、日本で働いていては、毎日こんな苦行を強いられて割に合わないのではないだろうか。

 父親を憐み、辛苦に耐えてまでも家族のために働いてくれていることを感謝する──そんな気持ちは、真璃沙には微塵もなかった。

 今日、真璃沙が不快さに耐えてまで満員電車に乗っているのは、秋に予定されているファッションイベントのオーディションがあるからだった。スマホを出して時間を確認すると、見事、集合時間には遅刻しなさそうだ。
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