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なりすました姦辱
第2章 制裁されたシングルマザー
 らしき場所に視線を向けると、スーツの前が尖っているのが見えた。寄り皺かな、と信じたかったが、立っていて弯曲する場所ではないし、弛んだ腹の下で、頂点がピク、ピクと蠢いているのが、横からだと一目瞭然だった。シートに座っている人々は、腕組みをして眠りこけたり、本を読んだり、スマホを覗いているから全く気づいていない。

(うわー、もーカンベンしてってば……)

 ワイセツ、なものを晒してはいるが、例えばこちらを凝視して、敢えて見せつけてきているわけではない。自分の世界に没頭しての、ただの生理現象……と、堂々と片付けられたなら反論もしたくはなるが、ただそこに居るだけで騒ぎ立てるのも、さすがにおかしい気がした。

 とはいえ、キモいものはキモいし、コワいものはコワい。

 1センチ、いや1ミリでもいいから男から距離を取ってキモコワさに耐えていると、アナウンスが待望の駅名を呼び、電車が減速を始めた。まだ止まり切っていなかったが、身を出口の方へと向ける。一刻も早くこの場を離れたいのに、行き道が人々で塞がれていた。

「すみませーん。おりまーす」

 声をかけると、降りるつもりはない何人かが互いに詰めて通り道を確保しようとしてくれるが、人一人通るだけの充分な幅は生まれなかった。少しも進めず立往生しているうちに、電車が完全に止まる。モタモタしていると、やがて乗車してくる人に押し返されて降り損ねかねない。真璃沙は多少強引にでも、人々を割って進んでいった。

 しかし出口付近は、逆側からも降車する人が流れてきていて糞詰まっていた。全員が、息を揃えて足を踏み出しているわけではない。前に進めないのに後ろから容赦なく押され、舌打ちをして振り返りかけたところで、

(……え)

 スキニーデニムの脚を、何かに擦られた。

 誰かの荷物かもしれないが、鞄の角ほどの硬さではなく、棒状の先端のような……今日は晴れ、誰も傘を持っていないはずだ。一度だけなら偶然として見逃してやってもよかったが、二度、三度と、執拗に突つかれる。

 そして回数を重ねると、より判然としてきた。
 硬いは硬いが、無機物的な硬さではない。

 背中を悪寒が駆け上る。
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