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なりすました姦辱
第3章 報復されたハーフモデル
 そう考えると、いつまでも愛梨がフォローをしてくれないことにも納得がいく。俺の名前を騙るニセモノだよ、無視したほうがいい。そんなことを言われたら、アプリのテキストと目の前の恋人、どちらを信用するか目に見えている。

 作戦が間違っていた、と反省せざるをえなかった。

 土橋を探すのではなく、愛梨と直に会い、魔の手から救い出さなければならない。そして自ずと、愛梨のそばには土橋がいるのだから、当初の目的も果たされよう──
 
 保彦は地下鉄に乗っていた。
 今日から、百貨店で北欧フェアが始まる。

 悔やまれるが、愛梨の電話番号を憶えていなかった。したがって、恋人を直に呼び出すことはできない。実家に行ったことはあるが、この風体の中年が突然訪れてきても、愛梨の両親は絶対に話させようとはしないだろう。愛梨の大学は良家の子女の通う女子大学、キャンパスを一般人に開放する建学以来の方針を守る保彦の大学と異なり、構内だけでなく周辺も厳しく監視されている。

 どこかで、捕まえるしかない。

 『絶対行く』と投稿していたのだから、愛梨は必ずフェア現れるだろう。ネットで調べると、百貨店の催事場の入り口はエスカレーターに面した一つのみ、拓けた場所にずっと立っていたとしても、出入りが激しい百貨店、毎日そこにいて、いくら醜貌でも、サラリーマンの風体ならば関係者と見てくれるかもしれないし、少なくとも、街中よりは断然怪しまれない。

 開店は10時からだったが、念のため早めに家を出たら、駅に着いたときに電車事故の発生を知った。上野乗り換えの銀座線で行くつもりだったけれども、日比谷線は代替輸送の人間で混乱しているかもしれないし、都心の電車は一つの路線でダイヤが乱れると、芋蔓式に他の路線も影響を受けていく。なるべく迂回する形で、北千住から押上に抜けての半蔵門線経由でも全然間に合いそうだった。もし、10時を目指していたらこんな余裕は生まれなかったろう。何だか幸先が良いな、このまま初日で愛梨と接触することができるのではないか、と、保彦は三文以上の期待を抱だいて、紫色の帯が引かれた車両へと乗り込んだ。
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