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なりすました姦辱
第3章 報復されたハーフモデル


 インターホンを切り、廊下を小走りに急いでドアを開けると、本当に土橋が立っていた。

「どうして家を……」
「電話に出なかったろ」
「え、ええ……。あの、子供が熱を出して……、病院に」
「聞いた。お前が出ないから汐里にかけたんだ。そしたら、『ババアは子供が病気で帰りました』だとさ。まさかあいつ、会社でお前のこと、間違ってババアって呼んじまってないか?」
「いえ……、広瀬さんが、そんなことするはずないわ」
「だろうな。で、家の住所を教えてもらったってわけだ。しかし、さすがはディレクター様、都内にこんな御立派な戸建てとはな」

 着信に応答しなかったことは責めず、玄関周りを薄ら笑いで値踏みするように眺めている。

 先ほど、ミヨさんを帰してつくづく良かった。
 涼子は胸を撫でおろした。

 早退ということなるが、明日のスケジュールはどうしても外せない用件が夜遅くまで詰まっており、今日は自分が俊介の面倒を見られるし、明日と差し引き、という形で願い出ると、ミヨさんは快く承知してくれたのだった。

 もし、ミヨさんと土橋が出遭してしまったら、どう説明していいかわからない。

 この、自分を姦した男を。

 相談がある旨のメモをこっそりと汐里から渡された時、「社内不正」「プリンシパル」という文言を見つけ、邪な心が芽生えてしまったことは否定できない。上司であるはずのプリンシパルは、躍進する自分を恐れているのか、権限をフルに使って自分の動きを抑制しようとしてくる。彼もまた、アジア地域のプレジデントの座を狙っているのだ。社内闘争なんて馬鹿々々しいが、馬鹿にしていると上位には立つことはできない。女性のエグゼクティブ層は本国には何人もいるのに、アジアに限ればゼロ、自分が、道を切り拓いていくべきなのだ。

 野心と使命感が、応接室へ足を向かせた。
 その結果──姦されたのだ。

 しかも、いまだに記号化したくない三文字だが、ただただ射精を望んで襲い掛かってくる、そんな凌辱ではなかった。今となって考えると、卑欲を一方的にぶつけられたほうが、まだ救いはあったのではないかと思えてくる。
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