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なりすました姦辱
第3章 報復されたハーフモデル
 階段から地上に上がる最中も、カタカナで『ニャム』か、アルファベットで『NYAM』がいいか、など話しながら歩いていると、

「たぶん……、お父様のお考えかしら、真璃沙は、マリーシャっていう名前から取られたのかもしれないわ。たしか、インドの神話とかにも出てくる名前だもの。そのお名前はどう?」

 と、古宮さんが提案してきた。

 なんだ、この人の知識量は……、警察官ってやっぱり相当頭がいいのか。

 あまりに賢い人は、話し方が鼻についたり、小馬鹿にしてくるような感じがするから苦手だったが、古宮さんが相手だと苦にならなかった。

 真璃沙は自分の名前の由来を聞いたことはなかったが、

「あれ? アタシ、インド人のハーフって言った?」
「えっ……。……ええ、ごめんなさい。あなたみたいなくっきりしたキレイな人って、インドには多いから、てっきり……間違ってたかしら?」
「ううん、合ってる。マリーシャか……本名に近すぎて、ちょいイキりすぎ感あるけど、それもアリかな。……あー、けんど、パパの思いが詰まってるとかは、やだな」
「……お父様、あまり仲が良くないの?」
「うん。アタシがモデルやってんの、めっちゃ反対してる。『自分を売り物にしてる』みたいな? いーじゃんね、別にカラダそのまま売ってるわけでもなし」

 あ、警察官に向かってキワドイことを言ってしまった、いや、そんなこと全然やってないし、やろうとも思ってないよ、と付け加えようとしたら、

「お父様としてはご心配なのよ、真梨沙ちゃんのことが。カラダ、だけ、じゃなくね」

 と、古宮さんはどこかしら含みのあるような言い方をしたが、「真梨沙ちゃん」と呼んでもらえた嬉しさのほうが上回り、真梨沙は怪訝をそのまま見送ってしまった。

 痴漢という不条理で腹立たしい被害に遭って30分と経たないのに、古宮さんと話すことで、真璃沙の心は完全に晴れていた。前を歩いている広瀬さんは何だか取っつき辛そうだが、古宮さんは美人な上に、優しく、博学で、これから警察へ向かうのを忘れるほど話をしていて楽しい。何より、女の味方、というのがカッコよかった。

(古宮さんって、結婚してんのかな。まー、フツーに考えて、こんだけの人だったら、ほっとかれんわなー)
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