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なりすました姦辱
第4章 隔絶された恋人
 あの日を境に、一人の男の──見てくれ最底辺、弱みを握ったら劣情丸出しで脅迫してくるような、強欲で陰湿な中年男の──奴隷となった。動かぬ証拠も残されてしまい、肉欲の赴くまま、日々磨いてきた体をとことん貪られた。

 自分に選択権はない。何かを望むなら、願い出なければならない。なのに叶えられる保証は一切ない。

 奴隷とはそういうものだった。
 初めて、自分の愛嬌が全く通用しなかった。

 それなのに、体に刻まれる性悦は、彼どころか過去の誰から得られた総てを合わせてさえ、軽く凌駕するほど壮絶だった。桁違いというより、全くの別次元。

 そうすると、一つの確信が、日増しに胸臆に焼き付いていく。

 それだけ、底なしに貪れるということは、それだけ、自分に執着しているのだ、と。

 彼氏がどんなに調子が良く、愛情が高まったとしても、二回が限度、三回なら奇跡。今や、所詮その程度の執着なのか、と侮ってしまう自分がいる。

 世の中にいる女たちのうち、天文学的少数しか、人生において遭遇しない『牝奴隷』という身分で、支配者に魂魄を奉ずる悦びは、あまりにも甘美で、逃れがたくなってしまったのだ。

 なのに……。

 20階にはペントハウススウィートしかないらしく、エレベータを降りた前には観音開きのドアがあるだけだった。チャイムを押すとインターホンが応答することなく、ドアの片方が開き、まるで似合っていないバスローブ姿の土橋が顔を出した。

「お待たせしました、汐里です」
「そんなデリヘル嬢みたいな挨拶しなくていいぞ」
「……。はい、私はデリヘル嬢ではないです。土橋さんの、いちばん最初の奴隷の汐里です」
「機嫌がいいのか悪いのか、どっちだ。何だか今日は、いつもと様子が違うな」

 まさか今日プロポーズされたことすら、この支配者は見抜いているのか?

 戦慄と希望を覚えながら中へと入ると、廊下を進む両側には高級マンションのごとくいくつもの部屋があり、最奥のリビングルームも破格の広さだった。

(ほら、やっぱりね)

 コの字に置かれた大きなカウチソファには、涼子と真璃沙が既に座っていた。
 
 だが、迎えた二人のいでたちは、ちょっとどころではなく、だいぶんおかしかった。素で見てしまえば珍妙ですらある。大声で嘲笑してやりたいが、自分は……自分だけは、着衣について何の指示も受けてはいない。
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