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なりすました姦辱
第4章 隔絶された恋人


 須賀はソーサーにカップを鳴らした。

「そっ、訴訟っ……!?」

 新宿のドトールコーヒーはほぼ満席で騒がしく、サラリーマンどうしの会話など誰も耳を傾けてはいないだろうに、自らの発した言葉に、須賀は忙しなく辺りへ目を泳がせた。

「ええ。弁護士に相談したら、充分、パワハラが成立するって言ってもらえましてね」
 土橋が、須賀にどんな扱いを受けたのかは全く知らなかったが、「……ま、ネットで調べたら、ソレ系の訴訟を専門にして稼いでるっていう、ちょっと怪しげなセンセイっぽかったですけど。それに依頼料も高くて、休職中の身には懐が辛いとこですが……借金してでもお願いしようと思ってますよ」

 悠然とアイスコーヒーを持ち上げ、汚らしく舌でストローを引き寄せて啜ってみせる。

「いや、パワハラって、あれがパワハラなわけないじゃないですか。正当な指示と指導でしょ」
「これだけ言われてるのに、パラハラの類型って知らないんですか? 精神攻撃、身体攻撃、過大要求、過小要求、人間関係からの疎外、プライバシーの侵害……。三つ……いや、四つくらいは、須賀さんも、私に対して心当たりあるんじゃないですか? 思い出してくださいよ」

 産業心理学の講義で習ったとき、事例を見れば、たしかにこんな職場はブラックそのものだ、と思う反面、ここまでのことを気にしていたら、果たして業務が円滑に回るのだろうか、という疑問も抱だいた。とりわけ須賀のように、後になってこのように迫られたら、あれはどうだったのだろう、これはどうだったのだろう、と、普段気にも留めない行動や言動が、屁理屈という言葉を飛び超えて、どれかに、またはどれにも、結びついてしまうのではないだろうか。

「か、会社には……?」
「いいえ、私は会社の安全管理義務違反を問いたいのではなく、須賀さん本人を追求したいだけですから、特に何も」

 それで安心できるわけもない須賀は、貧乏ゆすりをしつつ、テーブルを指先で高速に叩き、

「なら、こんなところに呼び出して、ど、どうしようって言うんですか……」
「いや別に、こうして事前にお話ししておいたほうがいいかな、って思っただけです」
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