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なりすました姦辱
第2章 制裁されたシングルマザー


 帰宅した涼子は、上り框の手前に置かれた薄汚れたスニーカーに顔を曇らせた。しかし直後、廊下を軽い足音が猛スピードで駆けてきて、

「おかえりママ!」
「ただいま、俊ちゃん!」

 敷台にバッグを置き、胸に飛び込んできた小さな体を受け止めた。職場では決して出ない朗らかな笑顔へ、何度もキスをされる。

「俊ちゃん、今日は何してたの?」
「んっと……、保育園行って、お花にお水して、なわとび」
「うん」
「おひるね、おやつ」
「うんうん、それから?」

 保育園でやることはルーティンなので、毎日さして代わり映えがしないのだが、聞いてやることじたいが大切だった。

「先生と、おりがみしてたら、ミヨさんがきた」

 ミヨさんは、家政婦として来てもらっている還暦越えの女性である。人柄の柔らかく、良くできた人で、俊介のお迎えも頼んでいる。安くはない依頼料だが、元小児科の看護師という経歴、退職後に栄養士の資格を取得したという努力家の面も含め、とても信頼を置いていた。何より、「やるべき仕事をしっかりとやり遂げる」という働きぶりが、涼子の好むところだった。

「それから、ミヨさんとおかいもの」
「ミヨさんにお菓子おねだりして困らせなかった?」
「……だいじょうぶ」

 ミヨさん困っただろうな、あとで謝りのメッセージを送っておこう、と心の中で苦笑しつつ、

「そして?」
「ごはん。テレビ」
「あれー、お勉強がないなー」
「したよっ。昨日ママの言ってたやつ」
「ほんと? What did you eat tonight?」

 ゆっくりと、一語ずつ区切って訊いてやると、

「Rice, Miso soup, んと、Fish.  ……ほうれんそうの、おひたし」
「Spinach ohitashi?」
「すぴ?」
「Spinach. 菠薐草のこと」
「ママすごい!」
「ご飯、お味噌汁、お魚、ちゃんと言えた俊ちゃんもすごいよ」

 今度は涼子のほうから、俊介の頬を吸ってやった。

 会社で人間関係や数字と戦い、どれだけ疲弊したとしても、俊介を胸に抱だいた瞬間、全てが癒される。

 離婚してから5年、元夫には子育てについては一切関わらせていない。もちろん養育費は出させているが、それに依存してしまうことを、母親としての、女としての、そして一人の人間としての矜持が許さなかった。
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