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なりすました姦辱
第2章 制裁されたシングルマザー

お互い、相応の苦労して今の立場にいる。しかもそれは現在地、通過点である。堕胎という話題が二人の会話に浮上したのも無理からぬことだった。しかし夫は、せっかく授かった命を見捨てたくないと言った。涼子もまた、同じ問いを自問自答したとき、答えは同じだった。
キャリアを足踏みすることにはなるが、育休が終わってから盛り返すつもりだった。会社に産休・育休の取得を申し出ると、しばらく後に会議室に呼ばれ、上司から部署と職種を変えるように勧められた。社内には取得事例もあったし、証券アナリストとしての仕事に充実感を感じ始めていたから拒否をしたが、その後も説得はしつこかった。
応じないまま産休に入り、俊介を産んだ。育休もフルに消化して会社に戻ってみると、すぐにアナリスト部門から外されることになった。後になって慎重に社内を見渡してみれば、産休・育休を取っているのは比較的長閑やかな部門の女性たちに限られ、本業たるマーケティング部門はそもそも女性が少なかった上に、妊娠すればすぐ退職が通例だった。海外ファンドが日本の調査会社を呑み込んで設立された会社は、見かけ上は女性の福利厚生が浸透していそうな外資系でも、旧来からの体質は変わっていなかったのだ。
会社に歯向かったが故の左遷先は、忙しくはないがスキルを活かせるとは思えなかった。会社を移ってでもやり直したい。当然、そう考えるようになった。
35歳からキャリアをやり直す不安は皆無だったが、幼い俊介を育てていくには、夫の協力は絶対だった。彼に相談を持ちかければ、自分の希望を最大限叶える前提で、どう協力し合っていくかを真剣に議論してくれるだろう、そう信じていた。
だが、夫の考えは違った。
夫は若くして上席から主席研究員への昇格がかかった時期であり、この先は実務だけではなく社内外での「政治」と「人望」が不可欠になるため、「人も羨む美しく献身的な妻」を求めていたのだった。最初は傷つけぬよう、やんわりと渋り、妻の考えを誘導しようとした。しかし、やがて話し合いは行われる度に口論となり、閑職に安住すれば家事も子育ても時間を十分確保できるだろうし、わざわざ好き好んで最前線の職場へ移って欲しくない、という思枠が透けて見えてくると、涼子は出会って初めて彼に満腔の失望を覚えた。
キャリアを足踏みすることにはなるが、育休が終わってから盛り返すつもりだった。会社に産休・育休の取得を申し出ると、しばらく後に会議室に呼ばれ、上司から部署と職種を変えるように勧められた。社内には取得事例もあったし、証券アナリストとしての仕事に充実感を感じ始めていたから拒否をしたが、その後も説得はしつこかった。
応じないまま産休に入り、俊介を産んだ。育休もフルに消化して会社に戻ってみると、すぐにアナリスト部門から外されることになった。後になって慎重に社内を見渡してみれば、産休・育休を取っているのは比較的長閑やかな部門の女性たちに限られ、本業たるマーケティング部門はそもそも女性が少なかった上に、妊娠すればすぐ退職が通例だった。海外ファンドが日本の調査会社を呑み込んで設立された会社は、見かけ上は女性の福利厚生が浸透していそうな外資系でも、旧来からの体質は変わっていなかったのだ。
会社に歯向かったが故の左遷先は、忙しくはないがスキルを活かせるとは思えなかった。会社を移ってでもやり直したい。当然、そう考えるようになった。
35歳からキャリアをやり直す不安は皆無だったが、幼い俊介を育てていくには、夫の協力は絶対だった。彼に相談を持ちかければ、自分の希望を最大限叶える前提で、どう協力し合っていくかを真剣に議論してくれるだろう、そう信じていた。
だが、夫の考えは違った。
夫は若くして上席から主席研究員への昇格がかかった時期であり、この先は実務だけではなく社内外での「政治」と「人望」が不可欠になるため、「人も羨む美しく献身的な妻」を求めていたのだった。最初は傷つけぬよう、やんわりと渋り、妻の考えを誘導しようとした。しかし、やがて話し合いは行われる度に口論となり、閑職に安住すれば家事も子育ても時間を十分確保できるだろうし、わざわざ好き好んで最前線の職場へ移って欲しくない、という思枠が透けて見えてくると、涼子は出会って初めて彼に満腔の失望を覚えた。

