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なりすました姦辱
第2章 制裁されたシングルマザー
「俊介も、弟や妹がいたほうが、しっかり屋に育つよ、きっと」

 と言った。

 俊介を抱いていなければ、つかみかかり、喉を絞めたかもしれない。
 愛だのなんだのと囁いてセックスを仕掛けてきた真の目的は、もう一度妊娠させ、彼の檻内に封じ込めるつもりだったのだ。

 友人の弁護士からは、一旦は性交渉を受け入れる態度があった点を指摘されてはいたが、涼子が『夫婦間でもレイプは成立する』と強く主張したことで、渋っていた夫は離婚を受け入れた。

 親権では揉めなかった。
 つまり夫は、自分にとって都合のいい人間を、いつでも使える場所に縛り付けておきたかっただけなのだ。そこに、俊介は含まれていないのだ。

 シングルマザーになったわけだが、涼子はその呼称には抵抗があった。世の彼女たちには何の罪もないが、現代社会においてはどうしても、「困窮」や「貧困」といった負のイメージがつきまとう。

 女一人で子を育てる。それは殊更に賞賛されるべき特異な行為ではない。一人の人間として、生きていく上でごく自然な選択であり、日々の営みのひとつに過ぎないはずだ。もし、そうした自立した生き方を意味する言葉としてシングルマザーという呼称が用いられるのなら、涼子は歓迎するし、むしろ、そうありたいと願っていた。

 元夫には、俊介の養育に手出しはさせないし、俊介を将来、元夫のような人間に、絶対にしない──

 涼子にとって、あの夜が最後のセックスだった。齢を重ねるごとに艶やかさの増す涼子に、勇気を出して言い寄ってくる男は多くいたが、あの最低最悪のセックスのせいで、性愛の悦びに浸る気にはなれなくなった。

 だいたい、男という存在があっての「オンナ」、には断じてなりたくない。

 性別を超えて、世界レベルで通用する人材になってみせる。妊娠した女を蔑ろにした会社を去り、今の会社に移って満身の努力を重ねた。冷たすぎる、厳しすぎると批判されることもあったが、子を産みもせず育てもしないくせに横柄に振る舞っている男たちへの反感が、結果至上主義を貫かせる原動力となり、これを是とする会社での地位を確固たるものにしたのだった。
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