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なりすました姦辱
第2章 制裁されたシングルマザー


 相変わらず、愛梨からのフォローは無かった。
 保彦がスマホを叩きつけたい衝動を寸出で抑え、画面を落とすと、周囲はほぼ真暗闇となった。

 当座の資金が入った財布を持った汐里をエレベーターホールで待っていた時、説明会の受付で提示するために、あの日の自分の財布の中には学生証が入っていたことを思い出した。だから保彦は、帰りに大学に寄ってみようと考えていた。泊まることができるわけではない構内に土橋が居るとは考え難いが、何らかの手がかりが見つかるのではないか、見つかればまた、そこへ行ってみるのもいい、何にせよ、少しでも可能性があればどこへでも探索しに行くべきだ、と思った。

 再び連れ込んだ会議室で汐里に注精をしたあと、テーブルに突っ伏して何やら色々と天板に垂れ流しているのを放って会社を離れ、

「……あっ!」

 PASMOに入金後に乗った山手線が走り出してすぐ、大声が出て横に立っていたサラリーマンを驚かせた。

 取り出したスマホに、Xからの通知があった。

『絶対行くに決まってる』

 日本橋のデパートで「北欧フェア」があるらしく、愛梨が、主催のアカウントのポストを引用した投稿をしていた。エレベーターで昇りながら汐里を呼び出すためにメッセージを打った時には通知は来てなかったから、それからの間、つまり、ついさっき投稿されたということになる。

 だが愛梨は、保彦のフォローはしてくれてはいなかった。

 何故だ?

 見逃しているのだろうか。一つ前の返信を付けた投稿には、自分以外の誰も返信をしていない。今回の投稿をする際に、気づかないなんてことがあるだろうか。やはり、怪しまれているのだろうか。

 消沈した保彦はしかたなくもう一度、「武藤保彦です」とフルネームを名乗った上で、最新の投稿にフォローを依頼する返信を付けた。

 大学へ行ったが、キャンパス内を自分が闊歩している幸運に遇するわけはなく、何の成果も手がかりも得られなかった。そういえば、とある履修科目の課題期限がもうすぐで、もちろん提出の有無は単位に影響するのだが、この姿ではどうしようもなかった。学生たちは友達どうし、恋人どうし、構内で笑い合っていた。みんな溌剌としていて、何の苦労もない平穏な日々を過ごしている。
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