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なりすました姦辱
第1章 脅迫されたOL
 確かに、新宿へ向かう西武線の車両に乗りこんだ記憶がある。

 身動きができないほど混んだ車内で、人と人とで圧迫される中に生じた僅かなスペースにスマホを持ち、就活サイトを見ていた。どこかの駅に止まって、周りの乗客が大量に降りていく流れに巻き込まれて、あれ、もう着いたのかな、何だか早いな、と押し出されるように降りたら──上野だった。

 いや、わけがわからない。

 路線図は或る程度頭に入っている。乗り入れる地下鉄をどのように乗り間違えたとしても、日比谷線には至らない。よく考えてみると、西武新宿線が辿り着くのは歌舞伎町の横、地上駅だ。地下鉄のどこにも繋がるわけがない。

 状況を整理しようとここまでの行動を省みたが、余計に混乱するばかりだった。

 物を入れる習慣の無いスーツの尻ポケットを探ると、そこにようやく、頼りになる文明の利器を見つけ出すことができた。

 そして驚いた。
 手にしたのは、使ってきたものと全くOSの異なる機種だった。

 いや──スマホの違いなど、この際は些細なことだった。

 握る手首に、見慣れない袖口が見えた。就活のために購入した濃紺のスーツではない、袖の折り返しがほつれたグレーのスーツ。僅かに覗いた白のワイシャツにも、汗の黒ずみがある。

 それに……節が膨れ、爪の色が黄土色に濁った指。

 就活マニュアルの通り、袖口の清潔さには注意を払ってきたつもりだったが、どこかに落度があったのかもしれなかった。

 しかし指は?
 指の形に見憶えがないのはどういうことだ?

 保彦は慌てて顔に手をやった。指先側にも、頬側にも感触があったが、指はいつもより乾いていて、一方の顔肌は妙にヌメっているように思えた。

 夢なのだろうか。

 だが、夢を見ている時の、ウトウトと頭の中が暈けている感覚とは違い、周囲を通り過ぎていく雑踏が、あまりにも瞭然としすぎている。

 呼吸が荒くなってきた。視線の先に、ブルーとピンクの男女を象形したマークと、壁にぽっかりと開いた入口を見つけた。排泄するつもりはないから、行列を作っているサラリーマンたちの傍らを抜け、手洗い場に立つ。
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