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なりすました姦辱
第2章 制裁されたシングルマザー
 ここまで詳細にでっち上げてくれなくても良かったのだが、人のいなくなった夜の社内で、余人を同席させないような内容を、汐里はよく創り出してくれたと思う。

 涼子が、彼女の上司であるプリンシパルと馬が合っていないのは、採用試験の事前レポートの話を聞いたときに覗き見え、汐里に詳しく話を聞いてみると、普段からもうバチバチのようだった。だから、プリンシパルの明るみにできない秘密をチラつかされたら、絶対に食いついてきて、罠が張られている密室にも疑いなく誘い込めると思った。

 目論見どおり、すっかり信じ込んだ様子である。
 信じ込んだがために、そこに意識が集中し、他のことには油断が生じていよう。

 汐里という駒がいるのだから、彼女がそうであったように、何か涼子の弱みを探らせ、それを盾に脅迫する、という案もあった。

 だが、これだけの地位にある涼子である、相当なネタを用意しければならないだろうし、何事にも百戦錬磨であろうから、あっさりと返り討ちに合ってしまう懸念があった。

 尊大な女の佳容を、屈辱と悲嘆に歪ませるのなら──

 保彦は衣擦れの音を立てぬよう、四つん這いで進んだ。香水によるものではない、いかにも「オトナのオンナ」らしい蠱惑的な匂いに包まれて、脚に荒息を噴きかけてしまわないよう注意するのに腐心した。

「もう大丈夫。あとは私に任せて、広瀬さんはこれからも──」
 涼子が汐里を労わろうとした時、首を伸ばし、組まれて剥き出しになった膝頭を、唾液まみれの舌でベッタリと舐め上げた。「──きゃあっ!!」

 飛び退いた涼子の小娘のような美悲鳴は耳心地よかったが、愉楽に浸っている暇はなく、無理やりテーブルの下から這い出ると、目の前10センチほどの超至近に立ち上がった。通常ならパーソナルスペースへの闖入など許しはしないのだろうが、全く無警戒だった出来事に涼子は即座の態勢を取れず、ただ目を丸くしての棒立ちだった。その表情を鑑賞する愉楽にも浸りたいが、このチャンスを逃してはならならず、

「……そらっ!」

 ウエストに腕を回し、長身に見合う体重はあったが、渾身の力で打っ棄った。女が男の力に対抗するには、充分な体と心の準備が要る。いきなりのことに涼子の体は広く頑丈なテーブルの天板の上へと投げ出され、登ってきた土橋の図体に馬乗りになられては、全く為す術がなかった。
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