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わたしの昼下がり
第39章 連れ込み旅館で(2)
 「今から事務所を出るのですが、よろしければ『みどり台』で逢いませんか?」

 『みどり台』とは、わたし達が何度か訪れた連れ込み旅館の最寄り駅の名前です。前は違う名前だったそうなのですが、『みどり台』という新しい装いの名前に変えて、駅前にデパートができるなど盛んに街づくりが進んでいます。街づくりを進める区域から外れたところに、昔から連れ込み旅館が何軒かあるのです。

 「わかりました」

 受話器を置いて身支度を整えます。バスに乗り駅に着きます。

 「みどり台まで」

 窓口で切符を買います。さもデパートに用があるような顔をして、切符にはさみを入れてもらって改札口を抜けました。朝の通勤ラッシュも終わって、電車は空いています。途中の駅からは、わたしのような女の人もちらほらと乗って来ました。窓からデパートが見えて、電車は『みどり台』に着きました。

 わたしの周りからも何人かが席を立ち電車から降りていきます。わたしは、足取りを少し緩めて階段を下りていきました。改札口の向こうに△井が待っていました。わたしと視線が合うと、いつものように先を歩き始めます。デパートの前を過ぎたとき、正面のシャッターがゆっくりと上がり始めていました。わたしは△井の背中を追いながらデパートを通り過ぎました。

 △井が路地に消えていきます。わたしもいつものように俯いて角を曲がりました。△井の姿は曲がった道の向こうに消えています。わたしは何度か角を曲がって、旅館が並ぶ一角に着きました。△井が待っています。

 「どこでもいいですか?」

 わたしは黙って頷きました。△井が選んだのは、わたし達が最初に使った旅館でした。帳場の前の壁には部屋の名前が書かれた札が掛かっていています。みんな黒い札です。

 「貸し切りですね、まあ、こんな時間ですからね」

 そう囁きながら、△井が一枚を裏返して赤い札にして帳場に告げました。

 「潮騒。二時間。…いや、三時間」
 「潮騒ですね。ちょっとお湯の出が悪いみたいで」
 「いいよ。構わない」
 「すみませんね。〇千円で結構です。ごゆっくり」

 二時間のときと同じ料金でした。

 「いつもの部屋でよかったですかね。今日こそはどの部屋でも選び放題でしたが」
 「構いません」
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