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わたしの昼下がり
第24章 登校日(2)
 「アオカンという訳にも行かないですしね。まあ、ボクは気にしませんがね…。どうでしょう、折を見てボクから電話させていただいてもよろしいですか。ご主人かお嬢ちゃんが電話をお取りになったら、『間違えました』ってすぐ切りますから。奥さんさえよろしければ…ですが」
 「はい…」
 「奥さんから会社に電話していただいても結構ですよ。だいたい外を回っていますが、営業部の電話番の女の子に『△井』と言って下さったら、社に戻ったときにボクに電話があったことを伝えますので。そうしたら、ボクからこちらに電話を掛けましょう」

 そう言って、△井が名刺をくれました。初めて△井がここを訪ねてきたときにもらったことが思い出されました。あれから、もう何度△井とまぐわったことでしょう…。

 「うちの電話番号は…」

 わたしがそう言いかけると、△井が手帳を開きます。

 「××局の××××番ですよね? いや、すみません。電話帳から控えさせていただいてました。奥さんさえよろしければ…ですが」
 「はい…」
 同じようなやり取りを繰り返して△井が部屋を出て行きます。

 「ヤリたくなったらすぐにでもヤれたほうがいいですからね…」

 靴を履きながら△井が言いました。今度は『奥さんさえよろしければ…ですが』とは言いませんでした。

 「では…。団地を出る辺りでお嬢ちゃんたちとすれ違うかもしれませんね」

 ドアが閉まり、わたしは胸ポケットに忍ばせた△井の名刺に手を当てました。わたしは△井が言い残していった言葉を心の中で繰り返しました。どちらが先に電話をするのか…答えはわかっているような気もしました。

 そんなことを考えながら、△井から受け取った靴ベラを手にしたまま、ぼんやりと玄関に立っていると娘たちが帰ってきました。

 「おかえりなさい。みんな元気だった?」
 「うん。でもお休みの子もいたよ。田舎に行ってるんだって。ねえ、ウチは行かないの?」
 「そうね…。パパのお仕事が忙しいから、お家を空けられないし…」
 「つまんないの。おばあちゃんに会いたいよ」

 去年の夏休みは、わたしの実家に娘たちを連れて一週間帰っていました。その間、夫は一人暮らしでしたが、家事をこなせる人でもなく…。今年は、何となく里帰りを切り出せない雰囲気でした。

 (実家に子どもを送り届けてとんぼ返りしてくればいいかしら…)
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