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愛の笛
第13章 エピローグ

「越中さんも遊びに来いよと言ってくれているし、出産を終えたら、一度遊びに行ってみるか?」

そのように何気なく話していて、ふと、葉子の顔を見れば、しかめっ面で眉間に皺を寄せている。

『はっ!もしかしたらビアンカ国の事を話していて、あの日の水中に溺れた事を思い出したのか?
ああっ!俺って何てバカなんだ!!』

きっと彼女は苦痛を思い出しているに違いない。
そう思って「すまん」と謝ろうとした草薙の言葉を遮るように
「あなた!タクシーを呼んで!!」と切羽詰まった声をあげた。

「タクシー?」

「う、生まれそうなの…!!」

そんな!?
予定日は半月も先じゃなかったのかよ!

草薙は慌ててタクシー会社に連絡をして迎車を頼んだ。

ほどなくして一台のタクシーが来てくれて、二人は急いで乗り込んだ。
タクシーの中で、葉子は脂汗をかいて苦痛の表情を浮かべている。

「運転手さん!急いで!」

二人の様子から妊婦さんが産気付いたのだなと運転手も気づく。

「奥さん!頑張るんだよ!すぐに病院までお連れしますからね!」

事故でも起こしかねないとヒヤヒヤするほど飛ばしてくれて、いつもなら30分はかかる距離を20分足らずで病院に到着した。
病院にはすでに連絡をしてあったので、そのままストレッチャーに乗せてもらったが、破水が始まったのか葉子の股間はびしょびしょに濡れていた。

「初産ですからね、ここからかなり時間を要するかもしれません」

草薙と葉子を安心させようとそのように言ってくれたのだろうけど、分娩室に入ってものの数分で「オギャー」という産声が聞こえてきた。

腰を抜かして分娩室前の廊下に座り込んでいた草薙のもとに看護師がやってきて「おめでとうございます。可愛い女の子ですよ」と報告してくれた。

「よ、葉子は?妻は?」

「ご安心ください。母子ともに健康ですよ」

その言葉を聞いて、草薙は生まれて初めて安堵と幸福感からの涙を流した。



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