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愛の笛
第5章 美穂と再び
草薙の仕事は夜のバイトである。
そう、マスターオーナーに疎まれながらも
他に行くところもなく、草薙は寡黙にバーテンダーの仕事を続けていた。
あれから彩佳から事あるごとに連絡をしてくる。
あちらは昼の仕事が終わって夜になれば退屈なのだろうけど、
当然の事ながら草薙の仕事は人々が日中の仕事から解放された夜が稼ぎ時となる。
仕事中でもお構いなしに彩佳は連絡をしてくる。
お陰で尻ポケットにしまってある彼のスマホは震え続けていた。
「ほら、スマホが震えているわよ」
さっさと用件を済ませてしまいなさいよと
バーメイドの美穂が鬱陶しそうに草薙に伝える。
「いえ…仕事中ですので…」
仕方なく草薙はスマホの電源を切るようにしていた。
何であの時、付き合ってほしいと言われて首を縦に振ってしまったのだろう…
我ながら女に対して甘すぎる自分がつくづくいやになってくる。
深夜、仕事が終わって部屋に帰ってスマホの電源を入れると
待っていたかのように彩佳から着信が来た。
「もしもし…」
仕方なく通話に出ると
- 草薙くん、忙しいのね? - と少し怒ったような彩佳の声が心に突き刺さる。
「ああ…だってほら、僕は夜の仕事だし…」
- 夜の仕事だっていうのはわかるけど、
ほら、休憩時間とかあるんでしょ?
私に連絡ぐらいしてくれてもいいじゃない -
「いや、客商売だからさぁ、お客さんがいるうちは電話もメールも出来るはずないじゃないか!」
こいつは内勤勤めみたいに定刻に休憩時間でもあると思ってるのか?
話していると、どんどんイラついてくる。
- あ、そうそう、私ね、草薙くんとお付き合いを始めたって葉子に告白しちゃった -
こちらがイラついているとも知らず
お花畑の頭なのか、彩佳と関係を持ってしまったことを
一番知られたくない女性に言ってしまっただって?
「おい!何を勝手に喋ってんだよ!」
- だって、真実なんだもん
それとも私を抱いたのは出来心だったとでも言いたいわけ? -
マズイぞ!一番知られたくない相手に彩佳を抱いたことがバレてたなんて!
「あの時、お前を抱いたのは謝るよ
とにかくさぁ…一度会ってゆっくり話そうか」
- えっ?デートしてくれるの?嬉しい! -
彩佳には悪いけど、僕の本命は葉子だと伝えなければと思った。

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