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愛の笛
第5章 美穂と再び

翌日の勤務では彩佳にはなんと言って交際を断ろうかとばかり考えていて、お客様に笑顔で接する事が出来なかった。

「何考え事をしているのよ!スマイルよ、スマイルを忘れないでね」

顔を見ずにロックの氷を削りながら、美穂さんはさりげなく草薙にダメ出しをした。

「僕、そんな険しい顔をしてます?」

「してるわよ…悩み事?
だったら相談に乗るけど…」

二人がコソコソ話をしているのがマスターには気にくわない。
二人が肩を並べると、たちまちわざとらしく咳払いをして距離を取れとばかりに睨み付ける。

「あの人、妬きもちやいてるのよ
自分は所帯持ちで奥さんがいるくせに私と関係を切ってくれないの。まったく贅沢ってもんよねえ」

あんたはあんなおじさんになっちゃダメよと
悪戯っぽく笑いながらマスターの目を盗んで小さなメモを草薙に握らせた。

『明日、正午にお店の前に来て』

メモにはそのように書かれていた。

翌日、草薙が目覚めたのは11時過ぎだった。

「いけない、美穂さんに呼び出されていたんだっけ」

急いで身支度を整えてお店に駆けつけた。
お店に呼び出すなんて何の用だろうか?
新しいカクテルの試作を一緒に勉強でもしようというのか?

お店に到着してドアに手をかけると当然の事ながらドアは施錠されている。
そして約束の正午になると一台のワンボックスカーが店の前に横付けされ、プッとクラクションが鳴らされた。

「?」

草薙はワンボックスカーに近づいて運転席を覗いた。
そこには小粋なサングラスを着用した美穂さんがハンドルを握っていた。

「乗って…」

美穂さんに促されて草薙はワンボックスカーの助手席にのりこんだ。

「ごめんねぇ…真っ昼間に呼び出したりして、このことはマスターには内緒にしておいてね」

「いえ、いいんです…どうせ暇ですから」

そう告げると美穂さんはニッコリと微笑んで、運転しながらほっぺたを突っついたりしてじゃれてくる。

「僕はてっきり呼び出されたのは、お店で新作のカクテルの勉強を一緒にするのかと…」

「そこまで仕事熱心じゃないわ
白状するわね、昼間はマスターに呼び出されてお店でHしてるの。
今日はマスターったら家族サービスとかで家族でお出かけらしいわ」

やはりマスターと美穂さんはデキていたのか…
草薙は返答に困って無口になった。
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