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愛の笛
第8章 衣笠夫妻に招かれて
「ねえ、衣笠くんから連絡があった?」
夕飯を済ませて食器の洗い物をしながら、
彩佳がこちらに振り向きもせずに唐突にそう言った。
東京の物価は高い。
しがないバーテンのバイトだけでは食っていくのがやっとで
草薙は生活苦になっていた。
再びどこかの発展途上国へ渡りボランティア活動をしたいのだが、生活をするためだけに給与は消えてゆき
どこをどう節約しても渡航費を積み立てる事さえ出来ていなかった。
性欲が昂(たかぶって)くると、
あまりタイプの女ではないが、草薙は彩佳を抱いた。
彩佳にとって、草薙は意中の男だったので、
肉体関係を持つきっかけは彼の魔笛ではあったが、
今では音色を聴かせることもなく積極的に草薙に抱かれた。
ある日、情事を終えた草薙に
「ねえ、同棲しない?」と持ちかけてきた。
好きでもない女と生活を共にするということになった。
彩佳に体を提供して快楽を与えてやるのと引き換えに
生活費を提供してもらうというのが契約条件だった。
もちろん、草薙の心の中に葉子という存在が住み着いているのを彩佳は感じ取っていたが、共に生活をすることで少しずつ葉子という存在を追いやり、いつかは身も心も草薙を自分のものにしたいと考えていた。
「衣笠から連絡?」
男からのLINEなど、いつも未読のままスルーしていたので、
連絡があった?と聞かれても知らぬ存ぜぬを決め込んだ。
「ほら、あの二人、新婚生活も落ち着いてきたから
私たち二人を招いてパーティーでもしませんか?と言ってきたのよ」
「僕たち二人だけを招待?」
どうせパーティーをするなら
同窓生仲良しグループを呼べばいいじゃないかと
怪訝そうな顔つきになったのを彩佳は見逃さなかった。
「そんなに大きいマンションでもないから皆は呼べないと思うの、日を改めて少しずつ何名かに分けて招待するつもりだと思うわ」
「それにしても、何で僕と君なんだ?」
「だって、私たち同棲してるって充希に教えたもの」
「えっ?知らせちゃったのかい?」
「ええ、もちろんよ
あなたが帰国して同窓会を開いたメンバーにはちゃんとお知らせをしましたから」
余計なことを!…
「迷惑だった?でも、同棲してるのは事実だし、隠し続けるってのも変な話でしょ?」
それはそうだが、せめて葉子にだけは知られたくなかった。

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