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愛の笛
第8章 衣笠夫妻に招かれて

数日後、気乗りしないまま彩佳に「喜んで伺いますって返事をしたのに、ドタキャンなんて失礼でしょ」と彩佳に尻を叩かれて重い足取りで新婚カップルの部屋を訪問した。

行きたくないと言うのが本音だったけれど、
なにせ、同棲と言う名の居候男なので、
部屋代から食費と何から何まで面倒を見てくれるスポンサーのような彩佳のご命令ならば従うしかなかった。

「ほらぁ~、そんな暗い顔をしていたら私たちが上手く行っていなくて、訪問したくなかったなんて思われたら、ご招待してくれた新婚のお二人に申し訳ないでしょ!」

エレベーターに乗り込み、エレベーターのミラーに向かわされて「こうやって笑顔を作らなきゃ」と彩佳は指で草薙の口角を吊り上げた。

「わかってるさ、俺だってそれなりに人生経験のある男なんだから、そつなく場の雰囲気を壊さないようにできるさ」

だからほら、俺の顔に触るなと
草薙は彩佳の指を邪険に払いのけた。

「お邪魔しに来ました~」

新婚さんの部屋に着いてインターホンに語りかけると
- 来てくれてありがとう、 今、手が離せないのよ
どうぞ遠慮なく入ってきて~ -
と、少し声を聞かないうちに、すっかり新妻らしくなった可愛い声がスピーカーから帰ってきた。

「お邪魔しま~す」

ドアを開けて足を踏み入れると、可愛いピンク色のエプロン姿の充希がキッチンから顔を覗かせて「ローストビーフとか食べるでしょ?いま、お皿に盛り付けているから」と言い残して再びキッチンの中に姿を消した。

「すいません、俺まで図々しくお邪魔しちゃって…
それで…衣笠の奴は?」

「ああ、夫ならビールを買いに近くのコンビニに行ってもらってるの」

夫ですって…

彩佳が草薙に顔を近づけて衣笠の事を「夫」と呼んだ充希の事を茶化しながら「いいなぁ~、私もあなたの事を早く夫って呼びたいわ」などと、充希への対抗心からか、わざとキッチンに聞こえるような大きな声で言った。

しばらくすると衣笠がどれほど飲むんだよと驚くほどの缶ビールを抱きかかえて戻ってきた。

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