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誰にも言えない、紗也香先生
第3章 謎の女、ファンタシーの扉
日曜日の朝は、柔らかな陽ざしとトーストの香りに包まれていた。
目覚ましも鳴らさず、私はゆっくりとバターを塗りながら、
昨日の余韻に心を遊ばせていた。

リザとの約束は、夕方の17時――
まだ時間はたっぷりある。
だけど、不思議な焦燥感が胸に灯っていた。

勇くんに連絡しようか、迷ってスマートフォンを手に取ると、
「今日は会いたいけど…友達との約束があって(泣)」
そんな彼らしい、短く素直なメッセージが届いていた。

少し寂しくて、少し微笑んでしまった。
…彼にとって“友達”と過ごす日曜も、大切な時間。
私はひとり、コーヒーを啜りながら
リザが書いた、あの住所をインターネットで調べてみた。

表示されたのは、繁華街の裏通りにひっそり佇む古いビル。
剥がれた塗装、消えかけた看板、
まるで、時の狭間に置き去りにされたような建物だった。

画面を閉じても、胸の奥がざわついていた。
これは、ただの「訪問」なんかじゃない。
何かが待っている――
この日常を、ひとひらずつ剥がしていくような何かが。

けれど、その扉を開けてしまうのは、
他でもない、私自身なのだ。
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