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誰にも言えない、紗也香先生
第3章 謎の女、ファンタシーの扉
鏡の前に立ち、静かに深呼吸。
「新しい私」が、ゆっくりと姿を現す時間。

淡く輝くベースに、ほんのり赤みを差したリップ。
まつげを一度伏せて、そっと上げた瞬間、視線の奥に少しだけ挑戦の光を忍ばせた。

レースのガーターストッキングを脚に這わせると、細く長く伸びるラインに心がざわめく。
優しく体に沿うランジェリーと、深い黒のドレスを纏うと、まるで誰かの夢のなかの女のよう。
金属のアクセサリーが耳元、手首でカチリと音を立てて、私を「誰か」に変えてゆく。

鏡に映った姿は、知っているはずの自分ではなかった。
けれど、その目の奥には、たしかに“わたし”がいた。

タクシーを呼ぶか、電車に乗るか——
悩んでいたとき、不意にスマートフォンが震える。
「バイヤーが10分後に迎えに行きます」
リザからの短いメッセージ。

ハンカチ、メモ、そしていつもの小物たちを小さなハンドバッグに入れて、
ピンヒールをカツンと鳴らしながら玄関を出た。

アパートの前に停まっていた黒塗りの車のドアが開く。
まるで映画のような静かな誘い。

後部座席は驚くほど広く、
前に置かれた小さなテーブルには、透明なグラスと淡いピンクの飲み物。
車がゆっくりと動き出す。

一口、唇に含むと、
それはまるで香水がそのまま液体になったような、
甘くて、どこか秘密めいた味だった。
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