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誰にも言えない、紗也香先生
第3章 謎の女、ファンタシーの扉
そして――保冷袋の中を、唇でそっと開く。
中から出てきたのは、まるで男の塔のように彫刻された氷。
中に、ふたつの鍵が閉じ込められている。
(これが……リザの、贈り物)

手が使えない私は、氷を床に立て、跪いたまま、そっと唇を寄せた。
冷たい――けれど、氷からはほんのり甘い、リザの香りがした。

氷を吸い、舐め、口の中で溶かしていく。
恥ずかしい姿のまま、まるで誰かに見られているような錯覚。
(こんな格好で……こんなこと……してるなんて……)
だけど、心の奥では、確かに感じていた。
“私”である実感。“サヤ”のまま、ここにいるという甘い悦び。

やがて、氷の中からゆっくりと顔を出した、ふたつの鍵。

ひとつは見覚えのない、小さな銀の鍵――駅のロッカー?
もうひとつは、私の手首を縛る手錠の鍵。

(……終わった。わたし、自分で……ここまで来た)

カチリ。
解かれた瞬間、自由になった手が、そっと胸元を抱きしめた。
その温もりは、誰のものでもない、
“サヤ”という新しい私のものだった。
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