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誰にも言えない、紗也香先生
第3章 謎の女、ファンタシーの扉
翌朝、私はいつも通りの“先生”に戻っていた。
白いチョークで黒板に英単語を書きながらも、胸の奥にかすかな違和感が残る。
(なにかが……足りない)

その「何か」は、午後の授業、ふと視線を上げた時、野村くん――勇の瞳の中にだけ見えた。
静かなそのまなざしが、ぽっかり空いた心の空白を、そっと満たしてくれた気がした。

放課後、帰り支度をしていると、スマートフォンが震えた。
「会いたい」――それだけの、リザからのメッセージ。

ある都会の駅、喧騒の中、改札を抜けた瞬間――
人混みの向こうに、リザの姿があった。
黒のスーツに身を包み、知的な眼差しとすらりと伸びた脚。まるで企業の重役秘書みたいに、圧倒的な存在感。

「来てくれて、ありがとう」

リザが微笑みながら、私の髪にそっと触れた。
たったそれだけで、胸がきゅんと締めつけられた。

私たちは腕を組んで、仲の良い姉妹みたいに、ショッピングモールを歩いた。
ドレスショップでは、思い切ってガーターストッキングやTバック、透けるレースの下着まで選ばれた。
試着室の鏡に映る、自分の姿に思わず赤面した。

「こ、こんなの……私、着たことない……」

するとリザはくすっと笑って、私の耳元で囁いた。

「でも、きっと似合うわ。今夜、あなたの“新しい扉”がひらく気がするの」

リザがすべて支払いを済ませると、私は少し罪悪感を込めてつぶやいた。

「今度、なにかご馳走するね。なにがいい?」

すると、リザは少し身を乗り出して、いたずらっぽく微笑みながら――
私の唇ぎりぎりに顔を近づけ、わざと店員にも聞こえるように、ゆっくりと囁いた。

「ア・ナ・タ・ノ・ミ・ツ……かしら」

頬が燃えるように熱くなり、私はバッグの持ち手をぎゅっと握った。

(も、もう……リザさんってば……!)
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