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誰にも言えない、紗也香先生
第2章 3回目のレッスン
電車に揺られて、四十分。
小さな駅に降り立つたび、世界の音が少し静かになる。

歩道を抜け、駐車場の向こう。
木造二階建てが、森の縁に寄り添うように立っていた。
いつもの場所、雄くんの部屋――
……の一階にある、あのお店。
《大人のオモチャ》
古びた看板の文字は、
春の陽にさらされて、ほとんど読めなくなっていた。
私は最初、それを「ただのおもちゃ屋さん」だと思っていた。
今日までは。

「お姉さん、こんにちは。今日はあの子、帰りが遅くなるってよ」

振り返ると、優しげな目をしたおばちゃん。
彼女の声には、なぜだろう。
都会にはない、あたたかい時間の粒が混じっている。

「バイト先でトラブルがあったみたいでね。あの子、まじめだから」

私は「帰ろうかな」と、「少し待とうかな」の間に揺れていた。

「もし待つなら、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど……
返品された製品に英語の説明があってね、どうにも読めないの」

ああ、待つ理由があった。
そう思った瞬間、胸の中が、ふわりと嬉しくなった。
まるで、春風が私の背中をそっと押したみたいに。

「もちろん。……英語なら、任せてください」

私は教師の顔で微笑みながら、
知らなかった扉の前に、足を踏み入れた。
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