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誰にも言えない、紗也香先生
第5章 川沿いのキャンディゲーム
終電の座席に腰かけた瞬間、私はリザが外してくれた鍵のぬくもりをまだ感じていた。
けれど、ベルトそのものは、脱ぐ余裕もなく、そのまま腰に残っていた。
「……なんで、こんな…」
脚が、何度も、ゆっくりと、痺れたように震える。ひとりなのに、誰かに見られているような緊張感。
恥ずかしさと、ふわりと溶けそうな幸福感とが、交互に波のように揺れてくる。

アパートにたどり着いたとき、甘く濡れた軌跡が、太ももからパンプスまで、しっかりと証を残していた。
見られていないかと後ろを振り返りながら、早足で部屋に入った。




ベッドサイドのテーブル。
引き出しを開けて、そっと、そこに並べた。
まるで通行証のように、順番に、一つずつ。

黒いもの――私の奥を開く「鍵」
赤いベルト――それを固定し、導いた「道」
青いチョーカー――幻想のドレスに変わる「印」
革の手錠――この世界への「誓い」

「……揃っちゃった」

四つのアイテムが、静かに私を見つめ返している気がした。
私は毛布の中に身体を埋めながら、小さな声で、誰にも聞かれないように、でも確かに呼んだ。

「リザ様……」

初めて、「様」をつけた。

それが自然だったのか、それとももう戻れない線を越えたのか、自分でもよくわからないまま、眠れない夜が始まった。
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