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愛染明王の御前で
第1章 第一話

「はい、もしもし、毎度ありがとうございます。橘生花店でございます」
電話先が名を告げたのだろう、店主は受話器を握りながらコメツキバッタのようにペコペコし始めた。
その仕草だけで、電話を掛けて来た相手が誰か、梢にはわかった。
橘生花一番の得意先である寺院である。
名前は瑞鳳寺。
相当な古刹だそうだが、普通の女子大生アルバイトの梢にその名は轟いていなかった。
「ええ、もちろんです。そうさせていただきます」
電話先には見えないにもかかわらず、店主は大仰なジェスチャーを伴ってニコニコしながら話していた。
「ありがたいお話しです。きっと本人も喜ぶと思います」
そこへ最近よく来る女性客が現れた。
言葉に表すには難しいが、なんだか雰囲気が違うのだ。
女が女を見ると、その背景にあるものが少しわかったりする。
きっと何かいいことがあったに違いない。
夫の昇進だろうか、それとも娘がテストでいい点数を取ったのだろうか。
梢は思わず「あれっ、奥様、今日はいつもと雰囲気が違いますね。何かいいことあったんですか?」と言ってしまった。
「そ、そう?いつもと変わらないけど」
ふいに投げかけられた言葉に、彼女は戸惑っているようだった。
たまに顔を合わすだけの間柄なのに突っ込んだ質問を投げ掛けてしまったからだろう。
「そうですかぁ?なんかこう…生き生きとした感じっていうか。そのワンピース素敵です!こんな素敵な奥様を持てる旦那さん、羨ましいなぁ」
梢の率直な気持ちだった。
そこへ電話を終えた店主から諌めの言葉が飛んで来た。
「おいおい、あんまりお客様の家庭のことを検索しちゃダメだぞ」と。
二言三言会話を交わし、その女性客は帰っていった。
電話先が名を告げたのだろう、店主は受話器を握りながらコメツキバッタのようにペコペコし始めた。
その仕草だけで、電話を掛けて来た相手が誰か、梢にはわかった。
橘生花一番の得意先である寺院である。
名前は瑞鳳寺。
相当な古刹だそうだが、普通の女子大生アルバイトの梢にその名は轟いていなかった。
「ええ、もちろんです。そうさせていただきます」
電話先には見えないにもかかわらず、店主は大仰なジェスチャーを伴ってニコニコしながら話していた。
「ありがたいお話しです。きっと本人も喜ぶと思います」
そこへ最近よく来る女性客が現れた。
言葉に表すには難しいが、なんだか雰囲気が違うのだ。
女が女を見ると、その背景にあるものが少しわかったりする。
きっと何かいいことがあったに違いない。
夫の昇進だろうか、それとも娘がテストでいい点数を取ったのだろうか。
梢は思わず「あれっ、奥様、今日はいつもと雰囲気が違いますね。何かいいことあったんですか?」と言ってしまった。
「そ、そう?いつもと変わらないけど」
ふいに投げかけられた言葉に、彼女は戸惑っているようだった。
たまに顔を合わすだけの間柄なのに突っ込んだ質問を投げ掛けてしまったからだろう。
「そうですかぁ?なんかこう…生き生きとした感じっていうか。そのワンピース素敵です!こんな素敵な奥様を持てる旦那さん、羨ましいなぁ」
梢の率直な気持ちだった。
そこへ電話を終えた店主から諌めの言葉が飛んで来た。
「おいおい、あんまりお客様の家庭のことを検索しちゃダメだぞ」と。
二言三言会話を交わし、その女性客は帰っていった。

