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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第14章 人界の様子

村で一番大きな建物──古い蔵を改装した粗末な集会所に、子どもたちが集められた。
土壁の隙間から冷たい風が吹き込み、むしろの床には薄い布が敷かれている。
子どもたちは熱にうなされ、頬は赤く、額には汗が滲む。肌には赤黒い斑点が浮かび、まるで呪いの印のように不気味に広がっていた。ある子は弱々しく咳き込み、別の子は小さな手で布を握りしめ、うわ言のように母親を呼んでいた。
幼い顔に刻まれた苦しみが、巫女の心を締め付けた。
(わたしが境界に囚われている間……助けに来れず、ごめんなさい)
巫女は深皿に澄んだ水を満たし、人差し指をそっと浸した。
彼女は胸に手を当て、目を閉じ、静かに念を唱え始めた。
低く、しかし力強い声が蔵の中に響く。
──瞬間、眩い光が彼女の手から溢れ、水面を震わせた。
光は深皿を越え、蔵全体を包み込むように広がる。むしろの床、土壁、子どもたちの小さな身体──すべてが柔らかな白光で満たした。
蔵の外に集まっていた村人たちが、漏れ出た光を見て慌てふためく。
「いったいなにがおこってるんだ!」
すだれを押して中に入ろうとする者もいたが、女性が「中に入るな」と叫んで制止していた。だが、光のあまりの美しさに我慢できず、数人がすだれを押し開け、蔵の中を覗いた。
そこには、巫女が子どもたちを一人ずつ抱きしめ、深皿の水を口に含ませる姿があった。
彼女の動きは慈愛に満ち、まるで母のように優しく、子どもたちの額にそっと手を置く。光が彼女の手から子どもたちに流れ込み、赤黒い斑点が一つずつ消えていく。
ある子が目を覚まし、弱々しく呟いた。
「からだ……ラクになったよ、母ちゃん」
村人たちはその光景に息を呑み、感動で涙を流す者もいた。
巫女は最後の子に水を飲ませ、静かに安堵の息をついた。子どもたちの顔に、穏やかな眠りが戻っている。彼女の額にも汗が滲み、麻の衣が光に濡れて輝いていた。

