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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第16章 鬼の葛藤

「こちらです、鬼王さま」

 屋敷がある境界を離れて鬼界に戻っていた鬼は、自身が使役する式鬼(シキ)に先導され、鬼街のはずれにある森に足を踏み入れていた。

 森の空は赤黒く濁り、血のような雲が重く垂れ込め、遠くで雷鳴が低くうなる。地面は岩と枯れ木に覆われ、ところどころに毒々しい紫の苔が這い、触れる者を拒むように妖気を放つ。

 ねじれた木々は、まるで苦悶する魂がごとく不気味にうねり、枝の隙間から覗く赤い霧が、鬼街の尖塔を霞ませている。

 空気は重く、湿った匂いが鼻をつき、獣の咆哮が遠くで断続的にこだまする…。

 鬼界の森は、人の世とは隔絶された冷たく荒々しい異界であった。

「この先は、境界か?」

 抑揚の無い鬼の声が式鬼(シキ)に問いかけた。黒い影のような姿をしている式鬼は、赤い目を闇の中でかすかに光らせ、恭しく答える。

「はい、鬼王さまの位置から四歩進んだ所が、入口です」

 一見、ただの森の奥にしか見えない。

 しかし鬼が足を進めると、空気が揺らぎ、透明な幕がゆらぐがごとく空間が歪んだ。

 さらに彼が一歩踏み込むと、目の前には無人の洞窟が広がっていた。

「……」

 岩壁は湿り、滴る水音が不気味に響き、暗闇の奥からはおどろおどろしい空気が漂ってくる。岩の表面には、爪で引っ掻いたような痕や、乾いた血の跡が点々と残り、恐怖に駆られた者たちが這いずった痕跡があった。

 鬼はまず静かに洞窟を一瞥(イチベツ)し、鼻を鳴らした。

「人間の臭いがこびりついているな。大量の女か」

「そのようです。すでに無人となっていますが、痕跡が残っております」

「都(ミヤコ)からさらった人間を此処へ隠したモノがいるというわけだ」

 鬼は面倒くさそうに息を吐き、洞窟の奥を見据えた。

「ちっ……呪いか」

 暗闇の先に、静かに脈動する呪いの気配が漂う。

 空気が重く、まるで無数の怨嗟が岩壁に染みつき…蠢いているかのようだった。


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