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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第21章 最期の言葉

....許さぬ
「お前の、名を…──っ」
「……?」
「名を、教えろ」
訪れた沈黙の最中、鬼が耳元で囁く
声は低く、切実だ
「いつか、必ずお前の魂を見付け、捕らえてやる。
必ずだ。その為には名が必要だ……!」
ぼんやりと霞む頭で…彼の言葉を聞きとった巫女は
彼にしか聞こえない小さな声で、聞き返した
「逃がして は‥‥もらえないのです か?」
「逃がすものか……決して、許さぬ」
「……そ ぅ」
そして鬼からは見えぬところで、巫女は最期に微笑む
(わたしの、名前…………)
....
「わたし の、‥‥‥なまぇ‥‥は‥‥‥───」
「………」
「───‥‥‥」
声が、途切れる。
脱力した頭が首をそらし、巫女の身体が動かなくなる。
鬼の腕からこぼれた彼女の手が地面に落ち、ぺたんと弱々しい音を立てる。
「‥‥‥‥‥」
鬼は彼女を抱きしめたまま、動かなかった。
いくら呼びかけようと返事はない。そうとわかっているから、沈黙が破られることは無い──。ただ、痛いほどに抱きしめた。
はるか遠くから聞こえる玉藻のすすり泣きだけが……この静寂をわずかに揺らしていた。
──…

