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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第22章 輪廻

花街を包む静寂は、まるで時間が止まったかのようだった。
赤黒い空の下、妓楼の灯りがパチパチと点滅し、薄暗い光が血の滴る地面を照らす。崩れた壁の風景、風に揺れる幔幕が寂しく音を立てる。
花街の路地は、血と妖気の匂いに満ち、呪われたモノたちの咆哮が消えた今、ただ静けさだけが重く漂っていた。
「──…」
鬼は、動かなくなった巫女を抱き上げた。
彼女の華奢な身体は、鬼の腕の中で嘘のように軽い。
冷たくなった肌が彼の熱に触れる。
いつもは鬼のほうが冷たかった。反対だ。
「…フッ、巫女は死んだか? 残念でしたね鬼王さま。ずいぶんお気に入りの玩具だったようで」
壊れかけた建物に寄りかかり、大蛇(オロチ)が軽口を叩く。
白い顔に浮かぶ嘲笑から、蛇の舌がチロリと覗いた。
彼の目には鬼の悲しみを理解する光はない。それは花街に集まるモノノ怪の大半も同じだった。彼らにとって、巫女の死はただの出来事に過ぎず、鬼王の動揺は理解しがたいものである。
「死体となっては、その血肉も味が落ち喰えたものではなくなる。鮮度のあるうちに召し上がってはいかがで───っ」
「これ以上鬼王さまに気安く話しかけるな!無礼者」
式鬼(シキ)が大蛇の頭を壁に叩きつけた。
ガンッと音を立て、壁が大きくひび割れる。
「…っ…ずいぶん機嫌が悪いなぁ」
しかし大蛇は額から垂れる青い血を気にせず、笑みを崩さない。

