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巫女は鬼の甘檻に囚われる
第24章 終章──いつの日か

──…
帝(ミカド)の御前は、宮中の荘厳な空気に満ちていた。
広々とした殿舎の床は、まだ戦の傷が残るものの、磨き上げられた黒漆が光り、柱には金箔の装飾が施されている。
御簾(ミス)の隙間から差し込む陽の日は畳に複雑な影を落として、帝の玉座は静かな威厳を放っていた。
巫女は、純白の小袖に緋袴をまとった姿で、平服して頭を下げている。
「宜し。汝(ナンジ)が申す通り…かの神器、我が預かり、継承せん」
帝の声は落ち着き、重厚に響いた。
巫女がそっと頭を上げる。
「待たれよ」
そして退出しようとする巫女を、帝が引き止めた。
「汝、果たして都に残るつもり無きや? その力、我が為に使わんか」
「ありがたき幸せに存じます」
巫女の声は清らかで、穏やかに響く。
「されど、わたくしは供養の旅を続け、それが終わればもといた社(ヤシロ)に帰らせて頂きたく存じます」
「その理由、申せるか?」
「わたくしが帝のお側にて力を振るえば、そは容易く、次の争いの火種と成りましょう。かつて…かの鏡がそうであったが如く」
「……左様か」
ニコリと微笑んだ巫女は、最後に深々と頭を下げた。
彼女の緋袴が畳に擦れ、静かな音が殿舎に響く。
帝は無言でその姿を見送り、御簾の影に沈んだ。

